こんにちは!星宮りょうです。
いつもコラムを開いてくださり、本当にありがとうございます。
タロットカードに興味を持ち、「自分のデッキを買ってみよう」とお店や通販を見たとき、多くの初心者が最初に出会う疑問があります。
それが、「マルセイユ版とウェイト版は、何が違うのか?」という問題です。
正確には、タロットがこの二種類だけに分かれるわけではありません。トート版、エッティラ版、ブザンソン版、イタリア系の古いデッキなど、ほかにも多くの系統があります。ただ、現代日本でタロットを学ぶとき、最もよく比較される二大系統が、マルセイユ版とウェイト版です。
長年、言葉と物語を作る仕事をしてきた私から見ると、この二つの違いは単なる絵柄の差ではありません。たとえるなら、マルセイユ版は余白の大きな抽象詩、ウェイト版は人物と風景が動く映画です。どちらも同じ問いに答えますが、使っている「物語の文法」が違うのです。
| 比較項目 | マルセイユ版 | ウェイト版 |
|---|---|---|
| 成立した背景 | 17〜18世紀のフランスを中心に広まった伝統的な図像様式 | 1909年に英国で刊行された近代的な占術用デッキ |
| 小アルカナ | 剣、杯、貨幣、杖を幾何学的に配した数札 | 人物、表情、風景を描いた場面札 |
| 読み方の入口 | 数字、スート、配置、全体の構図 | 絵の場面、人物の動き、象徴、感情 |
| 8番と11番 | 8番=正義、11番=力 | 8番=力、11番=正義 |
| 向いている人 | 余白を楽しみ、自分で意味を組み立てたい人 | 絵から物語を読み、直感的に学びたい人 |
1.まず知っておきたい「生まれ方」の違い
マルセイユ版:古いヨーロッパのカード文化を受け継ぐ姿
タロットそのものは、15世紀の北イタリアで遊ばれていたカードゲームにさかのぼります。現在「マルセイユ版」と呼ばれる図像様式は、その後フランス各地で受け継がれ、17〜18世紀に印刷されたデッキによって形が整っていきました。
ここで注意したいのは、マルセイユ版がすべてマルセイユで生まれたわけではないことです。リヨンなど、ほかの都市でも同系統のカードが作られていました。マルセイユのカード製造が大きな役割を果たしたため、後世に一つの代表名として定着したと考えると分かりやすいでしょう。
木版による太い線、赤、青、黄を中心とした力強い配色、左右対称に近い数札。そこには、近代の心理描写とは違う、古い図像の強さがあります。
ウェイト版:象徴を「場面」として語る近代のデッキ
一方のウェイト版は、アーサー・エドワード・ウェイトと画家パメラ・コールマン・スミスによって制作され、1909年に英国で刊行されました。出版社名を含めて「ライダー版」、二人の制作者名を尊重して「ライダー=ウェイト=スミス版」または「RWS版」とも呼ばれます。
ウェイトとスミスは、神秘思想を研究した結社「黄金の夜明け団」に関わっていました。大アルカナには占星術やカバラなどの対応関係が組み込まれ、小アルカナにも人物と風景が描かれました。
特に画期的だったのが、数札まで具体的な場面として描いたことです。これにより、数字やスートの知識だけでなく、人物の表情や視線、背景からも意味を読み取れるようになりました。
2.最大の違いは、小アルカナの「語り方」
記号から文章を作る
数字、スート、色、配置を組み合わせて意味を立ち上げます。絵が答えを言い切らないため、読み手が文法を使って解釈を組み立てます。
場面から物語を読む
人物が何をしているか、どこを見ているか、風景が明るいか暗いか。映画の一場面を見るように物語を読みます。
たとえば、ソードの3を比べてみましょう。
マルセイユ版では、三本の剣を中心とする幾何学的な構図が描かれます。読むときは「3」という数字、ソードが象徴する思考や対立、周囲のカード、置かれた位置を組み合わせます。悲しみだけでなく、意見が三つに割れること、考えを切り分けること、緊張が形になることなど、問いに応じて意味を広げられます。
ウェイト版では、赤いハートを三本の剣が貫き、背後には雨雲が描かれています。知識がなくても、傷心、悲しみ、痛みという印象がすぐに伝わります。これは初心者にとって大きな助けになりますが、強い絵柄に解釈が引っ張られやすい面もあります。
マルセイユ版は「文法から物語を作るカード」。
ウェイト版は「描かれた物語から意味を受け取るカード」。
この違いを理解すると、どちらが自分に合うかが見えやすくなります。
3.なぜ「正義」と「力」の番号が逆なのか
大アルカナの番号にも、よく知られた違いがあります。
マルセイユ版では、8番が「正義」、11番が「力」。
ウェイト版では、8番が「力」、11番が「正義」。
ウェイト版が順番を変えた背景には、黄金の夜明け団で用いられた占星術上の対応があります。しし座に「力」、てんびん座に「正義」を割り当て、その流れに合わせて8番と11番を入れ替えました。
そのため、デッキによって番号が違っていても印刷ミスではありません。どちらの体系に基づいているかが違うだけです。カードを買ったら、まず「力」と「正義」の番号を見ると、そのデッキがどちらの系統に近いかを判断しやすくなります。
4.リーディングすると、何が変わるのか
ウェイト版では、一枚のカードから比較的すぐに文章を作れます。人物が立っている、背を向けている、何かを守っている。そうした場面を説明するだけでも、リーディングの入口になります。
マルセイユ版では、まず数字とスートの性質を考えます。そこへカードの向き、左右の流れ、隣り合うカード、質問の文脈を重ねます。読む人の知識と感覚が表に出やすく、同じカードでも問いによって意味が大きく変化します。
これは、どちらかが深く、どちらかが浅いという話ではありません。ウェイト版にも高度な象徴体系があり、マルセイユ版にも図像から直感的に受け取れるものがあります。ただ、最初に開く扉が違います。
5.初心者は、どちらを選ぶべき?
ウェイト版が向いている人
- 絵を見て直感的に読みたい
- 人物の感情や関係性を物語として考えたい
- 入門書や解説サイトを活用したい
- 恋愛や人間関係を具体的に読みたい
マルセイユ版が向いている人
- 数字とスートの組み合わせを学びたい
- 具体的な絵に縛られず、意味を広げたい
- 古い図像や歴史的な雰囲気が好き
- 配置全体から構造的に読みたい
最初の一組としては、解説書が多く、数札の場面が分かりやすいウェイト版が学びやすいでしょう。ただし、マルセイユ版の絵柄に強く心を引かれるなら、最初からそちらを選んでもかまいません。
タロットは、長く手に取る道具です。学びやすさも大切ですが、何度でも眺めたくなるか、手元に置きたいと思えるかも重要な基準です。
よくある三つの誤解
- 誤解1:タロットはマルセイユ版から始まった タロットの古い例は15世紀のイタリアにあります。マルセイユ版は、後にフランスで定着した重要な伝統様式です。
- 誤解2:「ライダー」がカードを描いた人の名前 ライダーは出版社名です。構想を担ったのがアーサー・エドワード・ウェイト、絵を描いたのがパメラ・コールマン・スミスです。
- 誤解3:ウェイト版のほうが新しいから優れている 新旧は優劣ではありません。ウェイト版は場面を語り、マルセイユ版は余白を残します。目的と好みで選ぶものです。
最後に:自分の心に響く「言語」を選ぶ
親しみやすく雄弁なウェイト版と、寡黙で力強いマルセイユ版。
ウェイト版は、人物と風景を通じて「いま何が起きているのか」を語ります。マルセイユ版は、数字と記号の組み合わせを通じて「ここからどんな意味を作るのか」を問いかけます。
それは、映画と抽象詩、物語と音楽、説明と余白の違いに少し似ています。どちらが優れているのではなく、どちらの言葉が自分の思考や感覚に合うかが大切です。
これからタロットを始めるなら、難しく考えすぎず、楽器を選ぶときのように絵柄を見比べてみてください。何度も手に取りたくなる一組は、きっとあなたにとって良い相棒になります。
星宮りょう