悪魔のカードは、抜け出せないように見える快楽や依存の鎖を象徴します。しかしその鎖は、実は自分の意志で外せるほどゆるいもの。自分の弱さを見つめ、真の自由へ向かうための一枚です。
こんにちは!星宮りょうです。
いつもコラムを開いてくださり、本当にありがとうございます。
寒い冬の季節になると、我が家の猫たちはホットカーペットの上や、暖房の風が一番よく当たる特等席から一歩も動かなくなります。まるで床にドロドロに溶けてしまったかのように全身の力を抜き、ご飯の音が聞こえるまでただひたすらに貪惰(たんだ)な時間をむさぼるその姿。声をかけても「ここから絶対に動きたくない」とばかりに、薄目を開けて尻尾をパタパタさせるだけです。
彼らのその「心地よいぬるま湯から抜け出したくない」という強烈な執着と怠け心を見るたびに、私は今回ご紹介するカードの持つ、人間臭くて抗いがたい引力を思い出してしまいます。
新連載「日本一詳しいタロットカード解説」、第16回目は大アルカナの15番、「悪魔(THE DEVIL)」です。
「悪魔」と聞くと、誰もが恐ろしいホラー映画や、主人公を陥れる絶対的な悪役を想像するかもしれません。しかし、タロットにおける悪魔は、外からやってきて私たちを襲うモンスターではありません。それは私たち自身の心の中にある「甘え」や「依存」、そして「物質的な快楽への執着」そのものです。
シナリオライターの視点で言えば、悪役との戦いよりもずっと厄介な、「自分自身の弱さ(怠惰)との戦い」を描いた非常にディープなシーンと言えるでしょう。
今回も、この強烈な一枚の絵に隠されたオカルトの象徴体系を、2500字の大ボリュームで徹底的に読み解いていきましょう。
「アイン」と「磨羯宮」 ── 闇の中に隠された神のエネルギー
まずは、このカードの骨格を成す神秘の設計図から探っていきます。
ヘブライ文字では「アイン」という文字が当てられています。この文字に相当するカナン文字は、そのまま「目」の象形文字のような形をしており、目、見通す力、神、そして太陽に象徴される神の光や予言などを象徴しています。
西洋の神秘思想である「カバラ(生命の樹)」においては、神的エネルギーとその輝きのことを「アイン、アイン・ソフ、アイン・ソフ・アウル」と呼びます。悪魔のカードに「神の光」を意味する文字が割り当てられているという事実は、非常に意味深長であり、このカードの最大の秘密を解く鍵となっています。
そして宇宙観においては、「磨羯宮(山羊座)」と、対応惑星である「土星」に対応しています。
磨羯宮の支配星である土星は、サターンと呼ばれ、悪魔を表す言葉でもあります。しかしこれは、勿論山羊座の人の性質・人格を否定的に示すわけではなく、あらゆることにおける「冬」の側面を象徴する時期であり、受容と忍耐を示すものなのです。
12月中旬から1月中旬、太陽は天球図上の磨羯宮に入ります。地上の生けるものにとって一時的な死滅の季節である冬、その山羊座の季節のまっただ中である1月1日。新たな夜明けを告げて昇る生命力のシンボルである太陽に、人々は「死」に象徴される闇の力を見出すのです。変化を求める者、特に自然界の法則に逆転劇を望むような闇を支持する者たちが、有角神を崇拝するようになったのはこのためです。
バフォメットと四角形の台座 ── 物質主義への盲信
カードの絵柄の主役は、中央に鎮座する不気味な半身獣です。これは「バフォメット」と呼ばれる想像上の魔神・有角神であり、魔女の集会(サバト)で崇拝の対象とされる魔王レオナルドを彷彿とさせます。ギリシア神話では農耕を司る神「パン」に相当し、パンは人々にパニック(恐怖)を起こして大改革をもたらす神でもありました。人々は死の恐怖を味わわされることで畏怖していたのです。
また、水中に住むエジプト神セトや、ギリシアに伝えられるナイル川の怪物テュフォンにも通じます。
悪魔が座っている台座に注目してください。これは「皇帝」の石の王座と同様に、物質を象徴する「四角形」です。
この台座は、物欲一般、人や物事に対する所有欲や執着心を表し、あるとすれば金銭的な価値を重視すること、即物的な行為や考え方を表しています。精神的な豊かさよりも、「目に見えるお金や快楽がすべてだ」という物質主義への囚われを象徴しているのです。
「ゆるい鎖」と、恋人たちの堕落した姿
このカードで最も恐ろしく、そして私たちの胸をえぐる心理描写が、悪魔の足元に繋がれた男女の姿です。
タロットの世界において、人間がコントロールされるべき「悪魔の姿をした獣」が、逆の立場となって人間を鎖につないでいます。情動、本能、欲求に人が支配されていること、高みなる精神性を欠いている状態を示します。
しかし、彼らの表情や姿をよく観察してみてください。鎖で繋がれているというのに、彼らは苦しそうでも悲しそうでもありません。
首にかけられた鎖の拘束も、決して人が抵抗できないような強固なものではありません。その気になれば、首からすっぽりと外せるほど「ゆるい」のです。
それなのに、彼らは逃げようとしません。むしろ、本人が逃れることを積極的に望まないような「ぬるま湯状態」に浸かっているのです。そこから抜けたくても抜けることが出来ない人間の惰性、怠け心、慢心などを物語っています。
さらに、このカードに割り当てられた「15」という数字を「1+5=6」と解釈してみましょう。
数字の6は、あの美しい「恋人たち」のカードです。構図も確かに「恋人たち」のカードに酷似していますね。
「恋人たち」は感覚的な楽しさやフィーリングで感じ取る楽園のムードでしたが、「悪魔」は言ってみれば「恋人たちの逆位置」にも等しいカードです。肉欲が先走り、本能さえ快感を得られればよいと言う、社会性・道徳性に乏しい状態を表します。
男女間の身体だけの関係や断ち切れない腐れ縁、性欲だけでの結びつきなどを示すことになります。時に悪巧みや詐欺行為などの犯罪を表すことにもなるのです。
また、「15=1+5」において、1の「魔術師」の意志と、5の「法王」の道徳・モラルのバランスを欠いた状態が示されているとも読めます。偽りの言動、混乱・無秩序な状態です。
「15=7+8」と見れば、7の「戦車」と8の「力」のテーマであった「本能・獣性とどうつき合うか」という課題の難しさが浮き彫りになります。悪魔の快楽志向を克服するには、精神力を駆使するあらゆる試みが要される極めて強いものがあり、実際にアルコールやドラッグなどの依存症を示すこともあります。
シナリオライターが読む「逆位置」という名の希望
これほどまでに人間の醜い欲望と堕落を描いたカードですが、タロットは決して私たちを絶望させるための道具ではありません。
ここで、悪魔の「羽」に注目してください。「恋人たち」に描かれた天使の羽が「赤」であったのに対し、悪魔の羽は「白」なのです。
完全なる純、完全なる闇というものはないことの現れでしょう。生きるための本能・リビドーは誰もが根底に持つものであり、決してそれを悪しきものであるとか、持たぬべきだと言っているわけではありません。本能は好ましい形に昇華させることができるからこそ、その気づきを促すために悪魔は登場してくるのです。
この悪魔のカードが「逆位置」で出た場合のシナリオは、非常にドラマチックな救いの展開を見せます。
カードを逆さまに置いて、動画にして見てください。ゆるい鎖は、ストンと男女の首から落ちることでしょう。
これは肉欲や物質の支配から解放されていく過程であり、純粋な気持ちが戻ってきて、事態は清く移り変わっていきます。もともと負の要素が強いところが、好転して行く傾向になります。立ち直る、更生する兆し、我に返る、自分の感覚を取り戻す、踏ん切りがつく、解放されるといった、素晴らしい自立の兆しなのです。
ただし、他のカードの出方によっては、鎖が取れても人間の方にはどこかぬるま湯状態への未練が残り、ズルズルして完全に抜け切らない状態になることもあります。行く所まで行って他にやりようがなしに、嫌々ながら鎖を手放す、あきらめていくような感がある場合もあります。
それでも、真っ当な精神に立ち返る、確かな立ち直りの兆しであることに間違いはありません。
快楽の鎖を自らの手で外す時
もし今、あなたの前にこの「悪魔」の正位置が現れたなら。物質・快楽主義傾向、欲望に捕らわれる、惰性・反社会的な行為といった警告に耳を傾ける時です。甘い考えや期待を抱き、遊びやいたずら心から言動を取っていないか、金銭や物質に執着して感覚が麻痺していないか、自問自答してみてください。
「やめなきゃいけないと分かっているのに、やめられない」。そんな悪い習慣や、未来のない関係性、あるいは自分を甘やかす言い訳という名の「鎖」に、あなた自身が心地よく繋がれたままになっていませんか?
悪魔はあなたを縛り付けているのではなく、「お前が自分でその鎖を外さない限り、ずっとここにいていいんだぜ」と囁いているだけなのです。
その鎖を外せるのは、他の誰でもない、あなた自身の「意志」だけです。
ぬるま湯から立ち上がり、自らの手でそのゆるい鎖を首から外した時。あなたが恐れていた闇の奥には、「アイン」という文字が示す、あなた自身を照らす素晴らしい神の光が必ず差し込んできます。
あなたがご自身の本能と正しく向き合い、真の自由を手に入れるための勇気ある一歩を踏み出せるよう、ここから全力で応援していますね。
星宮りょう