タロットカード『戦車(ザ・チャリオット)』
THE CHARIOT
KEYWORDS / 勝利・前進・衝動・自制・挑戦

戦車のカードは、湧き上がる衝動と不安を抱えながら、それでも前へ進もうとする若い意志を象徴します。自分の中の相反する本能を統合し、進路を選び取る力が問われる一枚です。

こんにちは!星宮りょうです。
いつもコラムを開いてくださり、本当にありがとうございます。

夜中、静まり返った部屋の中で、我が家の猫たちが突然何かのスイッチが入ったように端から端まで猛ダッシュし始めることがあります。いわゆる「深夜の運動会」ですね。壁にぶつかりそうになってもお構いなしで、ただ湧き上がる謎のエネルギーと本能の赴くままに突っ走るあの姿を見ていると、今回ご紹介するカードの主人公が持つ、若々しくも少し危ういエネルギーを思い出さずにはいられません。

新連載「日本一詳しいタロットカード解説」、第8回目は大アルカナの7番、「戦車(THE CHARIOT)」です。

タロットの世界において、このカードほど「勢い」と「若さ」、そして「内面的な葛藤」が入り混じった複雑なドラマを見せてくれるカードは他にありません。シナリオライターの視点で言えば、未熟な主人公が自分の内なる衝動に突き動かされ、後先考えずに故郷を飛び出して敵陣へ乗り込んでいく、一番スピード感があってハラハラするシーンです。
今回も、この一枚の絵に隠された緻密なオカルトの象徴体系を、深く読み解いていきましょう。

「巨蟹宮」と「月」がもたらす、「初めに衝動ありき」の精神
まずは、このカードの骨格を成すオカルト的な照応から設計図を紐解いていきます。
ヘブライ文字では「ヘト」が当てられています。この文字は原カナン語の囲い込みを表す文字から派生したもので、身を守るもの、戦うこと、あるいは外と内との概念、表出するもの・しないものなどの象徴とされています。

戦車を駆る若き戦士、と聞くと、血気盛んな火星や男性的な星座を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、宇宙観においてこのカードが対応しているのは、意外にも「巨蟹宮(蟹座)」であり、対応惑星は感情や移ろいやすさを司る「月」なのです。

ここが、このカードの最も面白いところです。蟹座(巨蟹宮)は、情動の波が激しく、不安定になりやすい、あるいは傷付きやすい性質を表します。
5番の「皇帝」も同じく前進する力を持ちますが、皇帝は「目的や理想に燃えて進んでいく」という、目的に向かっての征服・支配欲であり、「初めに目的ありき」の行動です。
それに対して、この「戦車」の原動力は「初めに衝動ありき」なのです。思いついたら一直線、というような瞬発力に焦点が当たっており、男性にも女性にもある「自制心の効かないような情動、本能的欲求の強い部分」によって突き動かされている状態を表しています。

スフィンクスとホルス神話 ── コントロールすべき「生の本能」
カードの絵柄に目を向けてみましょう。彼が乗る戦車を引いているのは、馬ではなく白と黒の2頭のスフィンクスです。
エジプトにおいてスフィンクスは神や聖地を守る聖獣ですが、元々は魔除けの象徴として神殿の入り口などに配置された古代のライオンです。他のカードと同様、タロットにおいて動物は「人の本能」を表し、特に心理学用語で言う「リビドー(生の本能)」を象徴しています。
生きるための欲求、食欲、性衝動、あるいは敵に対して強くある攻撃性など、リビドーの赴くままに突っ走る衝動性の象徴がこの2頭なのです。白は純真、黒は闇の側面を示しています。

若者は、この二方向へ別れがちな本能(白と黒のスフィンクス)が暴走しないように、自意識をもって統合しながら前進しようとしています。前景のスフィンクスと若者を線で結ぶと「三角形(数字の3)」ができあがり、これはふたつのものからひとつのものを産み出す力や、物事の調和的解決を意味しているのです。

また、この若者はエジプト神話における「太陽神ホルス」であると語られることが常です。彼の父オシリスは、弟セトによって身体を八つ裂きにされてナイル川(カードの背景にも描かれています)に放り込まれました。後にホルスはセトへの復讐を果たしますが、その過酷な戦いで片目を失ってしまいます。この悲壮な神話のエピソードがモチーフとなっていることから、戦車のカードは「戦闘性、戦い、攻撃性」を強く象徴しているのです。

鎧の「月」と傾いたベルト ── 隠された不安とペルソナ
ホルス神の闘志を胸に、戦車に乗って飛び出した若者。さぞかし自信に満ち溢れているのだろうと思いきや、オカルトの象徴を読み解くと、彼の全く別の顔が浮かび上がってきます。

彼の鎧の肩飾りになっている2つの「月」に注目してください。これは心理学用語で言う「ペルソナ」を表しています。ペルソナとは、自我を隠す仮面のことであり、「他人からどう見られようとするか、社会においてどのような役割を果たそうとするかと言う、表の顔」のことです。

天蓋に見られる崇高な理想に端を発し、彼は衝動のままに走り出してしまったものの、実は「既に不安に満ち満ちている」のです。しかし、自分の中の内的情動に振り回されないよう克服しようとし、さらに外界に対して自己をコントロールしようとする奮闘状態にあります。
彼が身につけているベルトが傾いていることからも、表面の微笑む顔(ペルソナ)とは裏腹の、彼の不安定な衝動性が伺えます。

さらに、戦車の前方には「コマ」の絵が描かれています。勢いよく回っている間だけ立っていられるコマは、まさに「熱しやすく冷めやすい衝動性」そのものです。このカードは、非常に移ろいやすい状態を表し、「持続性のない状況であること」を物語っているのです。

シナリオライターが読む「等身大の勇気」と警告
物語の作劇において、最初から恐怖や不安を一切感じないキャラクターは、ただのサイボーグであり魅力がありません。本当の勇気とは、膝が震えるほど怖いのに、それでも一歩を踏み出すことです。
戦車の若者は、自分の未熟さも、これからの戦いの恐ろしさも、実は痛いほどわかっています。だからこそ、強い自分を演じるための仮面(ペルソナ)を被り、四角形(物質界・世俗社会での成功)を目指して、自分の暴走しそうな感情(スフィンクス)の手綱を必死に握りしめているのです。
私は、そんな強がりのペルソナの下で葛藤する彼の泥臭い姿が、たまらなく人間らしくて愛おしいと感じます。このカードが正位置で出た時、それは「奮闘する・戦う」「努力による達成」「自我衝動と、事態をコントロールしようとする意志」といった、若々しく力強いシナリオの展開を約束してくれます。

しかし、この持続性のないカードが否定的な側面(逆位置など)で出た場合は、非常に厳しい警告となります。
瞬発力のみが空回りして強調され、「飽きっぽさ、コロコロ変わりやすい気持ち、熱しやすく冷めやすい状態」が露呈します。思い込みが激しくなり、性急に突っ走って失敗する、あるいは暴走して困難やトラブルを招いてしまう。コマの回転が止まるように、衝動によって物事が停滞し、裏目に出てしまうのです。

人生において「やりたい!」という強烈な衝動(リビドー)は、物語を動かす最強のエンジンです。しかし、走り出した車は、いつか必ず燃料補給とメンテナンスが必要になります。
もし今、あなたが何か新しいことに向かって猛ダッシュしている最中にこのカードが出たなら。「走り出したその情熱は素晴らしい。でも、途中で不安になっても投げ出さず、自分の感情を最後までコントロールして走り抜く意志を持ってくださいね」という、タロットからの熱いエールとして受け取ってください。

あなたの駆る人生の戦車が、見事に目的地へ辿り着くことを、ここから全力で応援していますね。

星宮りょう